今日の俳句 季語『冬近』

今日の俳句 季語『冬近』
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冬近し 結露で景色が モネのよう

車窓から 稲穂が消えて 冬隣

日を数え 網目を数え 冬近し 

 永盛 希生子

 今、私は四季のない国に暮らしています。昔、あんなに嫌だった雪の日の風景が心から懐かしい。特に今年はコロナ禍で気軽に帰国が許されないため、余計に寂しさが増しています。普段、思い立ちさえすれば、すぐに帰れた頃には気が付けなかった気持ちです。

 さて、私の暮らす国は異国からの移民や労働者が多く暮らし、季節はありませんが、宗教の行事が一年を彩ります。イスラム教、ヒンズー教、仏教、儒教、キリスト教など、それぞれの行事が国の祝日となり、街はそれに合わせてデコレートされます。日本では宗教を日々暮らしの中で意識することのほうが珍しくなりましたが、海外ではむしろ信仰を持たない人の方が少数派。毎日モスクからコーランが流れ、日曜にはキリスト礼拝があり、旧正月には皆で赤い服を着る。それが季節のように生活の一部になっています。

 現地の友人は私に言います。

「君は迷った時、何を心の拠り所にするのか。」

と。それに対して私はいつも即答できませんでした。彼らはすぐそれぞれに慕う神や預言者の名を言います。彼らの生き方を見ていると、そこに迷いがない。今ではそれを羨ましいなと思うようになりました。

 辛い時や迷った時、私は何を拠り所にしていただろうか。

 そもそも『拠り所』って何だろう。

 振り返り考えてみると、そんな時、私の脳裏にはいつも日本の海や山の風景がよぎっていた気がします。少なくとも海外で暮らしてからはそうです。特定の誰かではなく、季節で変わる山肌や、波や風、川の音を思い出す。

 もしかしたら信仰のない私にとって、心の拠り所は日本そのものなのかもしれないな、とちょっと思った冬隣、でした。

 

 

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