ある朝、娘は動物を保護しないと宣言した(1)

ある朝、娘は動物を保護しないと宣言した(1)
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 ある日の朝のこと、娘はトーストにバターとジャムをたっぷり塗りながらこう言い放った。

「私、動物の保護はしないことにする。」

いきなりの突拍子もない宣言に私は驚き、我が家の猫は遠くから恨めしそうに朝食の並ぶ食卓を眺め、テーブルの下では相も変わらず犬が落ちてくるご褒美を待っていた。

「おうおう、どうした?」

「先生が地球には絶滅寸前の動物がたくさんいるって。そしてその原因の多くには人間が関係しているって言うの。それでね、私達に今出来ることを考えましょうって言われたの。」

 今年の娘の担任はイギリス出身のレベッカ先生。きれいな赤髪と笑顔が素敵な女性だ。彼女は菜食主義で、環境科学を大学で専攻。週に一度はファスティングをし(ご飯を食べずに胃腸を休ませる)、スナックタイムにはナッツを食べているそうで、感化されやすい娘はナッツを買ってくれと言うようになった。

 娘の学校はランチがビュッフェ形式、今まで娘たちは毎日自分の好きなものを好きなだけ食べていたのだが、レベッカ先生が担任になってから、

・好きなものだけでなく野菜も食べる

・よく噛んで食べる

・デザートはちゃんと野菜を食べてから

というルールがクラスに発表された。

親としては、今まで昼食に好きなもの “しか” 食べていないだろうことに一抹の不安はあったものの、嬉しそうな子どもに負け、目をつぶってきた部分であったので、切り込んでくれたレベッカ先生には心から感謝なわけだが、当然子ども達はご不満だった。でもそこはレベッカ先生、説明上手で褒め上手。かなり時間はかかったものの、子ども達はなんだかんだでそのルールを守るようになっていった。

 というわけで、日常から環境問題や動物保護問題を語る小学校生活。娘はGoogleとSiriと図鑑を相棒に先生に言われた「人間のせいで動物が減っている実態」を学び始めた。

 その過程では牙をえぐられた象を見て号泣、豚インフルの殺処分を見て号泣しながら地団太を踏むなど、怒りやら悲しみやらでぐちゃくちゃになっていた。ところが動物の密輸を調べ始めたところで風向きが変わったらしい。密輸はもちろんいけないことと理解していたが、

 

『禁止された動物を飼った人がその動物を生涯大切にして、数を増やした場合、動物は幸せではないのか』

と娘は疑問を持った。

というのも我が家は犬猫を飼っており、我が家の中で彼らは娘より先輩である。彼らがいることは娘にとってはごく自然なことであり、彼らを大切にすることもまた、娘には当然のこと。その動物は幸せかもしれないよ、と考えたのだ。

 なかなか面白い着眼点である。

 そんな折、日本にある私の田舎のスーパーでクマが立てこもるという事件がニュース記事にあがった。その記事を見つけ、都会で育つ娘はクマが街にいるの?じいじとばあばは大丈夫?とプチパニックに。

そしてそのニュースは

『今猟友会がクマを麻酔銃で撃てるか協議しており、捕獲された後、殺処分される予定です。』

と締めくくられていた。

「え?なんで?なんで殺すの?かわいそうじゃん!」

という娘に

「かわいそうじゃない。人間のテリトリーに入ったクマは危険だから殺すしかないんだよ。」

と私が言うと

「そんなの人間の勝手だよ。」

と泣く娘。

私は、私が幼少期過ごした田舎での暮らしについて娘に話すことにした。

(2)へ続く

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