日常に潜む虐待の闇、私たち大人に突きつけられる子ども達の迫る表情と言葉に注目
近年私が韓国映画にハマっている理由は韓国映画界全体から感じる骨太な挑戦魂に他ならない。今回の作品「幼い依頼人」もその代表的な1作であった。
韓国社会派映画の暴力シーンは『生もの』に近い。ちょっと心臓の弱い方にはお勧めできないと思う時すらある。ただ目を覆いたくなるようなシーンであっても、作品の裏側にある作り手の真摯で深い愛情が私たちの芯を打ち抜き、目を逸らすことが出来なくなる引力を持つのも韓国映画だ。そして正義だけに陶酔しないリアルな描き方に、受け手の誰もが暴力と紙一重の場所にいることを実感させられる。
本作は2013年韓国で実際に起こった継母幼児虐待死亡事件に基いて制作された。事前情報を聞いた時から、虐待シーンを韓国映画がどう描くのか気になった。そしてやはり、韓国映画は裏切らなかった。
虐待のシーン、やはり目を背けたくなる。しかし、同時に私たちの胸を刺す。作り手の「お願いだ、目を逸らさないで、私達の隣で起きてることから。」という真摯な思いが、作品に対する深い愛情が。
虐待をあつかった数ある映画と本作の違いは『どうして虐待が起こったか』ではなく『虐待が起きている事実を大人がどう受け止め、どう動いたか』に焦点をあてた、という点だ。大人のずるさや弱さが丁寧に描かれているため、まるで観ている私達大人がその場に居合わせたような錯覚を起こし、作品から罪悪感や無力感をリアルに感じてしまう。そこへ主人公ダビンが作中でいうセリフ「親に愛されない子どもは、普通に生きちゃダメなの?」というセリフが胸を突らぬく。
弁護士ジョンヨプ役を熱演したのは大ヒット映画『エクストリーム・ジョブ』のコミカルな刑事役が印象深いイ・ドンフィ。主人公の心の変化を細やかな演技で見せたこの作品は、彼の俳優人生において代表作となるだろう。継母ジスク役には『母なる証明』での好演が光ったユソンが狂気の演技を熱演、賛否あるであろうこの役を引き受け、演じ切った彼女に敬意を表したい。そして弟を殺したと驚きの告白をする主人公ダビン演じた子役チェ・ミョンビン。彼女の演技が作品をより一層リアルなものにした。
3月下旬に公開された作品が新型コロナウイルスの感染拡大防止の影響でAmazonプライムビデオ、U-Nextなどで6月上旬より期間限定先行配信。料金は700円とレンタルとしては少しお高めだが、その価値はあります。